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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)3869号 判決 1960年3月01日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人坪野米男の上告趣意第一点は、原判決が大正八年四月二日宣告の大審院の判例と相反する判断をしたことを主張する。しかし、刑法七条にいう公務員とは「法令ニ依リ公務ニ従事スル議員、委員其他ノ職員」をいい、その「法令ニ依リ公務ニ従事スル職員」というのは、公務に従事する職員で、その公務に従事することが法令の根拠にもとづくものを意味し、単純な機械的、肉体的労務に従事するものはこれに含まれないけれども、当該職制等のうえで「職員」と呼ばれる身分をもつかどうかは、あえて問うところではないと解すべきである(昭和二八年(あ)第四一九一号同三〇年一二月三日第二小法廷決定、刑集九巻一三号二五九七頁、決定要旨第一点参照)。原判決及び第一審判決の引用した諸法令の規定によれば、本件郵便集配員常村弘一は、右諸規定により公務に従事するものであり、その担当事務の性質は単に郵便物の取集め、配達というごとき単純な肉体的、機械的労働に止まらず、民訴法、郵便法、郵便取扱規程等の諸規定にもとづく精神的労務に属する事務をもあわせ担当しているものとみるべきであるから、仕事の性質からいって公務員でないというのは当を得ず、従って、同人がその職務を執行するに当りこれに対して暴行を加えた被告人の原判示所為は、刑法九五条の公務執行妨害罪を構成するものといわなければならない。従って、原判決の判断は相当であるから、所論引用の大審院の判例は変更を免がれず、論旨は理由がない。上告趣意第二点は事実誤認の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋 潔 裁判官 石坂修一)

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